バッハの旋律を夜に聴いてきた話


プロローグ

バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)の福島公演を聴きに福島市へ。

1月は仙台フィルの定期へ、2月は仙台フィルのクラリネット奏者下路さんの主催するクラリネットをテーマにしたコンサートへ…と、今年に入って月1回の演奏会を楽しんでいるところです。

まだまだ聴き始めて間もないところですがだんだん欲が出てきて、東京の素晴らしいコンサートホールでの演奏会を体験してみたいなと思い始めてきたところ。僕に音楽を指南してくれるInvenzione ArmonicaのNさん夫妻はBCJファンで首都圏の方でBCJの演奏会にもよく足を運んでいる。クラシック音楽入門者にはBCJの世界はまだハードルが高いような気がして「まぁそのうち」くらいに考えていましたが、コロナの流行が落ち着いたら東京まで音楽旅行でもしてみようかなと思い始めた頃でした。

さてさて、3月はどんな演奏会に遊びに行こうかと考えていた頃、Twitterのタイムラインにバッハ・コレギウム・ジャパンの福島公演の予告を見る。


3/1、N夫妻にLINEで連絡

私「BCJの福島公演あるんですね」

N「いいね、これ、行ったら良いんじゃない?」

私「平日確実に行ける見込みがつけば…検討します」


ここからは早かった。約1週間後の3/9、先走ってS席チケット予約。郡山在住の音楽友人Kさんも来てくれることを期待して連絡を入れていたところ、程なくしてKさんもチケット予約。ここから福島音楽旅行の楽しみが始まりました。


3/25(木)当日

平日19時開演の演奏会なので、15:30頃仕事を切り上げて仙台駅へ。新幹線で福島駅へ向かう。この日昼ごはんを食べずに仕事を片付けることに専念して頑張ったので、演奏会前の空腹を満たすために駅弁とビールで一足先に仕事モードから離脱。福島駅までの30分ほどの短い旅情を楽しむ。そういえば、新型コロナ流行後新幹線に乗ったのは初めてだ。

隣県の福島市までほんの少しの距離ではあるものの、今回の旅行に際して妻の理解がなければ実現しなかった。一人の音楽旅行(しかも1泊)を許してもらった自由さと言ったら。

仕事に対する息抜きの側面もありました。張り切って仕事する年頃と自覚して毎日頑張って仕事をしているもののオーバーワーク気味でさすがに辛いなと思っていた頃。一時小休止して、一人の時間をもらう。しかも好きな音楽を聴きに出かける。道中、心身がいかに開放されたかと言ったらありません。


福島駅着。久しぶりに福島駅から福島市街地に降り立った。過去2〜3回程度は訪れたことのある福島駅周辺。歩いてみると少しずつ当時の記憶が蘇る。だいぶ春らしく暖かくなってきている仙台よりもさらに少し暖かく感じる。

福島駅で待ち合わせしていた友人Kさんと合流して、車に乗せてもらい福島市音楽堂へ向かう。郡山在住のKさんは演奏会のためにこの日有給休暇を取り、万全の体制で参加。駐車場が混む前に会場に入り車を置き、近くのラーメン屋で腹ごしらえをし、開場時間に余裕を持って来場するという理想的な流れ。(新幹線で駅弁食べましたがさらにラーメンも食べました)。



今回の会場の福島市音楽堂。これは僕にとって過去を振り返ると結構重要な場所で。IAの練習を初めて見学した場所がこの場所だったのです。今から13年前の2008年。初めてIAの定期演奏会のチラシをデザインする依頼を受けて、練習見学に訪れた。当時カメラを持って撮影しながら演奏の様子を見させてもらった時の記憶は今も鮮明だ。お互いに言葉を交わし、意思疎通を重ねながら練習する様子が新鮮でした。デザインのヒントが欲しくて「楽譜ってみんなにとってどういう存在?」とみんなに質問した記憶がある。※その後無意識に五線譜のようなタイムラインを感じさせるビジュアルが完成したのは思い出深い。

その当時から考えると13年という単純な年数の経過も驚きだが(そんなに前のことのように思えないという意味)、当時クラシック音楽の世界に初めて触れた大学3年生のデザイン学生が、今やバッハの音楽を聴きに一人で隣県へ遊びに来るに至った。なんとも感慨深いものがあります。


18:30 – 開場

コロナ対策として手指のアルコール消毒やマスク着用、チケットのモギリも自分でやって半券を渡すというのも今やすっかり慣れてしまった習慣だ。さらには今回は座席が1席ずつ間引いての案内となっていた。2月の下路さんのコンサートでも同じように100席定員の会場で座席間引いて50席の定員だった。興行として主催者側の心配をするのも余計なお世話かもしれないが、聴衆としては席間に余裕のあるレイアウトは良い鑑賞環境であることは間違いない。

Kさんとはそれぞれチケットを予約したので、各自の予約席に着席し、いよいよ演奏会が始まった。


今回のプログラムはオールバッハ。カンタータと管楽器が個人的なお題。ベートーヴェンの合唱幻想曲に触れて以来親しんだオーケストラ+合唱というジャンルのおかげで声楽に抵抗なく、カンタータは結構すんなりと受け入れられました。


結婚カンタータ(BWV 202)

ソプラノの澤江衣里さんのふくよかな歌が、たった一人の声でこんなに空間を掌握するのかと感心しきり。チェンバロを演奏しながら指揮をして全体の息を整える鈴木優人さんの背中がとても親しげに感じられた。

鈴木優人さんの指揮を初めて見たのが1月の仙台フィルの定期。1月の仙台フィルの定期を聴きに行こうと思ったのも、鈴木優人さんの指揮をN夫妻に勧められてのこと。優人さんのことを知ってからというもの、BCJへの興味が広がり、今回のBCJ福島公演へ足を運ぼうという動機になっているので、1月の仙台定期鑑賞がこの日への最短経路になったのだなと思い返される。

仙台フィルでの客演の指揮とは違った背中に感じられた。緊張とリラックスのバランスの取れた、BCJというホームチームでの振る舞い。


オーボエ・ダモーレ協奏曲(BWV 1055R)

協奏曲好きとしては、オーボエが主役となる協奏曲に触れるのは初めて。しかもオーボエ・ダモーレという古楽器。柔らかく奥行きのあるニュアンスが全体に調和して心地よい響き。チェンバロ協奏曲から再構成された曲であると、優人さんのプレトークによる。


管弦楽組曲第2番(BWV 1067)

今度はフルートが主役。こちらも古楽器のフルートの柔らかい響き。鶴田洋子さんの、派手な動きをすることなく静かに佇みながらも、淀みなく連なるメロディがとても心地よかった。通奏低音が止まった瞬間のフルートへのスポットライトの当たった感じ、冷静で、それにより一層力強く響いてきた。


教会カンタータ(BWV 51)

今回一番楽しみにしていた曲。目当てはもちろんトランペット。しかもナチュラルトランペットという古楽器の演奏を聴くのは初めてでした。優人さんのプレトークによれば「銭湯で牛乳をぐいっと飲むような力強い構え」との例え。

5曲で構成されるこの曲の1曲目と5曲目に登場するトランペット。1曲目の華やかな祝祭感が堂々としてカッコいい。5曲目、澤江さんの“Alleluja!”の美声とともに締めくくられる。


そういえば。チェンバロのプロの演奏を聴くのはこれが初めての機会でした。「プロの演奏」が「初めて」というのは、「友人が演奏するのは数多く聴いたことがある」という意味になるのですが、チェンバロを所有しているN夫妻のおかげで演奏を聴くことはおろか、運搬を手伝うこともあるくらい、親しみのある楽器です。チェンバロの音色には懐かしさを感じます。

弦楽器が使うガット弦というのもIAとの関わりのおかげで初めて耳にする道具の名前ではないし、振り返るといろいろとバロックの音楽基礎知識に触れてきたのだなと気付かされる。


アンコールは結婚カンタータより9曲目ガヴォット。結婚というテーマであることを抜きに考えても、今の社会情勢を生きる我々に明るいメッセージを送ってもらったような気がしました。



21:00 – 終演

素晴らしい演奏の余韻とともに、Kさんと会場を後にする。平日仕事終わりの夜に、こうして一人で隣県に音楽を聴きに遊びに来ていることを改めて思い返して、さらに贅沢な気分になる。今日は福島に1泊する旅行なので、ホテルに戻ったらこの余韻を味わいながらお酒でも飲もう。

そんな多幸感に満ちた気分で帰りのKさんのクルマのドアを開けると、車内にたちこめる福島名物、円盤餃子の香ばしい匂い。実はKさん、福島市に来たお土産にと、福島駅で名物「餃子の照井」の円盤餃子をテイクアウトしていたのでした。

バッハの思い出は餃子の香りと共に。Kさんから金言いただきつつ、ホテルまで送迎していただきました。


ホテルで荷物を片付けてせっかくなので一人でふらっと居酒屋で軽く飲んでからホテルへ戻り、今日の感想シェアのためN夫妻と郡山に戻ったKさんの4人で、ビデオ通話で演奏会についてあれこれ話す。一人で聴きに来た演奏会だけど、こうして興奮冷めやらぬうちに話ができるのが楽しい。

音楽の話をして、お酒を少し飲んで、疲れて一人ホテルの部屋で眠る。仙台からちょっと離れただけの小旅行だけど、なんだかとても幸福度の高い遊び方ができたな、といま振り返って感じています。


福島県矢吹町の有名な日本酒「楽器正宗」がたまたま入ったお店で飲めた。

歴史上の数多くの著名な作曲家の一人としか認識していなかったバッハという作曲家。その偉大なる存在を認識し、奥深い世界に一歩足を踏み入れたこの音楽旅行。その「沼」の深さをすでにそれとなく感じつつありますが、いずれバッハ音楽の最高峰「マタイ受難曲」を聴きに行っている自分がいるんだろうなと、そう遠くないであろう未来を想像しています。

バッハの旋律を夜に聴いてきた話」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: 仙台フィル/第345回定期演奏会 | sunao

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